
一人の人間の存在が、人類を滅亡させる――計算機はそう予言した。 世界中で始まる「その人がいない世界」の探索。無数の仮想世界の果てに残されたのは、誰かの不在によってのみ守られた未来だった。

数字で答えられる質問にだけ、すべてを知る機械が答える街。 息子の中学受験を待ちきれない父親は、禁じられた統計参照機に忍び込み、家族の未来を数字で確かめようとする。

飲めば賢くなる1薬と、飲めば少し愚かになれる2薬。 すべてが与えられる退屈な世界で、人々は二つの薬を使いながら「ちょうどいい自分」と、忘れていた楽しさを探していく。

戦場の悪夢を、広告が鮮やかに塗り替えていく。 敗戦国の復員兵を眠らせる「広告付帯睡眠薬」。商品を買う金も尽きた男に、広告のない眠りを手に入れる契約が差し出される。その対価は、戦友の思い出だった。

千年前、空に墜ちた巨大な星骸。人々はその骨の上に都市を築き、青白い星髄の光で文明を育ててきた。 頭蓋の冠、肋骨回廊、脊椎鉄道、腕部港湾、指先灯台、心臓の炉。死んだ神の身体そのものが六つの都市となり、その外縁には記憶と時間の海、黒き時海が広がる。 千年祭の朝、修繕師見習いの少女・湊伊織は、遠い港湾街区が崩れ落ちる「骨の音」を聞く。 救助を切り捨てた宰相の命令に背き、彼女は禁じられた修繕に手を伸ばす。 これは、世界を元に戻す物語ではない。 壊れた世界を、未来へ繋ぎ直す物語だ。