第1話終電のあとに
終電を逃した夜は、世界がすこしだけ広くなる。
真昼はホームのベンチに座って、行き先表示が消えるのを眺めていた。23時59分。案内板の光が落ちて、駅は急に、ただの屋根つきのコンクリートに戻る。
数字が揃った瞬間、聞いたことのないアナウンスが降ってきた。
「まもなく——ねむりの駅、ねむりの駅です」
来るはずのない電車が、音もなく滑り込んでくる。

扉が開くと、車内の灯りは月と同じ色をしていた。制帽の駅員がひとり、革の改札鋏を鳴らして立っている。
「お客さま。今夜は、どの夜へお帰りですか」
真昼は答えなかった。答え方を知らなかったからだ。
駅員は困った顔もせずに、鋏をくるりと回した。
「ここは、終電を逃した方だけが来られる駅です。切符は一枚。行き先は、日付でうかがいます」
「……日付」
「いちばん帰りたい夜を、ひとつだけ」
真昼の頭に浮かんだのは、駅名でも、家でもなかった。台所の、蛍光灯の白さだった。
ずるい、と思った。こんな夜に、そんなことを訊くなんて。
「決まったら、おっしゃってください」駅員は言った。「わたしは、カナタと申します」
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