第3話七日目の贈り物
七日目。業者が来るのは翌朝の9時だった。
猫はいつもより早く来た。まだ空が明るいうちに、ベランダから入ってきて、いつもの段ボールのあいだに座った。
そして、最後の一つを置いた。
写真だった。
引き伸ばしもされていない、L判の、ふつうの写真。写っているのは凪と、凪の母親だった。4年前、この部屋に越してきた日に撮ったやつだ。
凪はその写真を、越してきて半年後に捨てた。ゴミの日に、他の紙束と一緒に。母と口をきかなくなった年だった。
「どこにあったの、これ」
猫は答えなかった。
凪は座り込んで、長いこと写真を見ていた。母は笑っていなかった。凪も笑っていなかった。二人とも、カメラのことを気にしすぎている顔で、少しだけ体が離れて立っていた。ひどい写真だった。
——ああ、と思った。
この猫は、拾ってきていたんじゃない。**選ばせに来ていたのだ。**この部屋に置いていくものと、持っていくものを。
凪は缶を開けて、中身を全部あけた。ボタン、鍵、ビー玉、イヤリング、写真の切れはし。どれも、誰かがこの部屋に置いていったもの。誰かが、持っていかなかったもの。
凪はそれを缶に戻して、押し入れの上の棚に置いた。次に住む人が見つけるかもしれないし、見つけないかもしれない。
写真だけ、鞄に入れた。
「持ってく」
猫は目を細めた。それから立ち上がって、ベランダへ歩いていった。
「ねえ」
猫は振り返らなかった。
「……ありがとう」
手すりの上を、平均台みたいに歩いて消えた。
翌朝、猫は来なかった。空の部屋に業者が入って、段ボールを運び出して、9時40分には何もなくなった。凪は最後にベランダを見て、鍵を閉めた。
新しい部屋の窓から外を見たのは、その日の夜だった。
隣のマンションの手すりの上を、灰色の影がひとつ、平均台みたいに歩いていた。
(了)
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