第3話十七年前の光
七日目の夜、柊はその光をもう一度見つけた。
前と同じ場所。同じ鈍い金色。ただ、前より少しだけ小さくなっていた。
触れた瞬間に、わかってしまった。
——父さんが、帰ってきますように。
7歳の柊が、この浜で投げた願いだった。母に連れられて来た夏で、水平線に向かって石を投げながら、声に出さずに言った。それきり忘れていた。忘れたつもりで、17年持っていた。
「動かんだろう」
男は少し離れたところで、バケツを地面に置いた。
「持ち主が来ると、光は小さくなる。手放す気になったってことだ」
「手放したくないって言ったら」
「そのままだ。誰も困らん。おまえが毎晩ここに来るだけだ」
柊はしゃがんだまま、長いこと動かなかった。波が三回来て、三回引いた。
——帰ってこなかった。それだけのことだ。17年かけて、やっとそれだけのことになった。
柊は両手で光をすくった。
軽かった。
驚くほど軽くて、拍子抜けするほど普通の重さで、それは手のひらの上でゆっくり明滅していた。心臓みたいだと、初日に思ったのを思い出した。
バケツには入れなかった。立ち上がって、水平線に向かって、思いきり投げた。
光は弧を描いて、暗い海のどこかに落ちた。音はしなかった。
「よし」男が言った。「上がるぞ。もう白む」
空の端が、夜と朝の境目の色になっていた。
「あの」柊は訊いた。「拾った光は、どこへ行くんですか」
「捨てる」
「捨てる?」
「海に返すだけだ。またそのうち、誰かが投げる」
男はバケツを持ち上げて、砂を踏んで歩き出した。柊はそのあとをついていった。自分のバケツの中で、今夜の21個が、順番に消えていくところだった。
(了)
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