傘の修理をしていると、ときどき妙な注文が来る。
閉じるときだけ鳴く傘。亡くなった犬が噛んだ穴を、穴の形のまま補強してほしいという傘。
けれど、半分にしてほしいと言われたのは初めてだった。
女の子は黄色い傘を作業台に置いた。小学三年生くらいだろうか。長靴の爪先に、乾いた泥がついていた。
「切るの?」
「うん。こっち半分、雨が入るようにしたい」
「それじゃ濡れるよ」
「そっちは、濡れていいの」
私は傘を開いた。骨は八本。布にも傷はない。
「誰かに聞いてからのほうがいいんじゃないかな」
「お母さんには聞いた。自分のお小遣いならいいって」
女の子は財布から硬貨を出した。百円玉が二枚と、十円玉が七枚。最後の一枚は財布を逆さに振って出した。
私は硬貨を押し戻した。
「まず、どうして半分なのか教えて」
女の子は少し困った顔をした。
「お父さんが、入らないから」
父親は毎週水曜日、駅まで迎えに来る女の子と一緒に帰るらしかった。雨の日はこの黄色い傘を使う。ところが父親は、傘をいつも娘のほうへ押しやってしまう。
「お父さんの肩、びしょびしょになるの。もっとこっちって言っても、平気平気って」
「大きい傘にすれば?」
「持ってきてって言っても忘れる」
女の子は、開いた傘の縁を指でつまんだ。
「だから半分なくなれば、わたしのほうも濡れるでしょ。そしたら、ちゃんと自分の傘を持ってくると思う」
なかなか筋が通っていた。
私はしばらく傘を眺め、それから店の奥へ行った。修理を諦めた傘の部品を入れてある箱に、長い骨が何本か残っていた。
「切る前に、別の直し方を試してもいい?」
女の子は疑わしそうに私を見た。
「高い?」
「二百七十円でできるところまで」
翌日の夕方、女の子は母親と来た。
私は直した傘を開いた。片側の骨を長いものに替え、紺色の布を継ぎ足してある。黄色い丸の片側だけが張り出した、不格好な傘だった。
女の子は黙って傘の下に立った。
「広いほうをお父さんに向けるんだよ」
柄を握り、右へ傾けたり、左へ傾けたりする。母親が隣に入ると、ようやく口元がゆるんだ。
「これなら逃げても入る」
母親は顔を背けて笑った。
代金は女の子が払った。私は十円玉を一枚ずつ数えて、古いレジに収めた。
それから二週間ほどして、水曜日に雨が降った。
店を閉めようと表へ出ると、通りの向こうを黄色と紺の傘が歩いていた。紺色の下には背広の男が、黄色の下にはあの女の子がいる。
傘はやはり、少し女の子のほうへ傾いていた。けれど、男の肩は濡れていなかった。
女の子が私に気づいて、空いている手を振った。男もこちらを見て、頭を下げた。
すると傘が揺れて、継ぎ足した布に溜まっていた雨が、男の首筋に落ちた。
男が飛び上がった。女の子の笑い声が、道路を越えて聞こえた。
水が溜まるのか。そこは直さなくてはいけない。
私は閉めかけた戸を開け、作業台の引き出しから、あの紺色の布の残りを探した。