ダークランドの成り立ち
この資料は本編の核心に触れる内容を含みます。第11章あたりまで読んでから開くことをおすすめします。
想像力を燃料にする国
不思議の国は、訪れる人間の想像力を燃料にして存在する世界。アリスが大人になり、訪れる子どもが減った現代、国は慢性的な燃料不足に陥った。
住人の呼称では「ダークランド」。昔は別の名前だったと、チェシャ猫は言う。
空は夕暮れのまま固定されている。時間が止まっているのではなく、「残り少ない」。世界の色は抜けていて、薔薇は白く、紙のような手触りがする。城の石壁は日に晒されたポスターの赤で、かつて赤かったことだけが分かる。
現実の電子機器はここでは機能しない。スマホの画面は映らない。
忘却と輪郭
忘却が進むと、住人は「輪郭」を失い、自我から崩れていく。忘却の進行は輪郭の滲みとして見え、末期には名前を忘れる。
名前は輪郭そのもの。呼ばれなくなった名前から、住人は消えていく。
炉心とアリスの忘れ物
アリスは国を去るとき、「あれは夢だった」と結論した。そのとき置き去りにされたのが、「不思議の国を本気で信じていた頃の自分」、信じる心そのもの。この忘れ物は少女の人格を持ち、国の炉心として百年、国を支えていた。
本体のアリスが「夢だった」と確信を深めるたび、忘れ物の少女は薄れていった。忘却はここから始まった。
女王の選択
ハートの女王は暴君ではない。絶望的な延命措置を続けた統治者。
最初の処刑は、薄れゆく忘れ物の少女のハートを札に封印して保存することだった。炉心は止まり、国の緩慢な死が確定した。以後の百年は、この選択の後始末。
「首をはねよ」の真意は、忘却で完全に崩れる前に自我を切り離し、ハートを札に封じて保存する措置。斬首の刃は存在しない。ゾンビトランプ兵は、彼女が保存した国民の魂の仮の容れ物。恐怖による統治は、強い感情を想像力の代替燃料として強制徴収する延命措置だった。
「ハートの女王」とは、全員のハートを預かる者のこと。女王は保存を「仕舞う」と言う。帽子屋の「取っておく」と対になる言葉。
客人の代償
客人は長居すると、「向こう」の記憶が薄れる。最初に消えるのは名前。