Episode 2願いの重さ
三日目の夜に、柊は理由を訊いた。
「重い光って、なんなんですか」
男はバケツの底を見たまま答えた。
「叶わなかったやつだ」
波の音が二回。
「軽いのはな、もう終わってる願いだ。叶ったか、忘れられたか。どっちでもいい。だから軽い」
「じゃあ重いのは」
「まだ、誰かが持ってる」
柊は自分のバケツを見た。今夜の光はどれも軽い。指先で触れると、かすかに何かが伝わってくる。誰かの、もう終わった願いの残り香みたいなもの。
——受験、合格しますように。 ——明日、雨が降りませんように。 ——このまま、ずっと。
「それ、聞こえるんですか」
「聞こえん。感じるだけだ」男は少し笑った。「わしは慣れた。おまえはまだ若いから、よく響くだろう」
その夜、柊は12個しか拾えなかった。
明け方近く、波打ち際に大きな光を見つけた。手のひらに収まらないくらいの、鈍い金色。近づくと、砂がその周りだけ黒く濡れて見えた。
拾うなと、頭のどこかが言った。
柊は膝をついて、指をかけた。
——動かなかった。
砂に埋まっているのではない。重すぎた。両手を添えて力を入れても、光は微動だにしなかった。
「言っただろう」
いつのまにか男が後ろに立っていた。
「持てないのは、まだそいつのものだからだ。持ち主がいる限り、誰にも動かせん」
「……いつになったら動くんですか」
「あきらめたときだ」
柊は手を離した。指先に、じんとした熱が残った。
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